2025年06月13日
日本生まれのカラオケ装置を、「歴史的偉業」と認定∶IEEE
日本生まれのカラオケ装置を、世界の権威ある機関が「歴史的偉業」と認定
■ 世界が認めたカラオケマシーン
IEEE(Institute of Electrical and Electoronics Engineers、アイ・トリプル・イーと発音する)という組織がある。エレクトロニクス関連を仕事にしている人なら誰でも知っている国際機関である。
【写真】根岸重一さんが開発した世界初のカラオケマシーン「ミュージックボックス」。その後「スパルコボックス」と名前を変更した。音楽がかかると色とりどりの電球が点滅して場を盛り上げる
世界160か国以上、45万人を超える会員を擁し、電気・電子・情報・通信分野の学術研究を行う学会であると同時に、技術標準化機関でもある。
そのIEEEで2020年度の会長を務めた福田敏男・名古屋大学名誉教授は「エレクトロニクス系の技術者でなければIEEEを知らなくて当たり前ですが、IEEE802.15.1は、皆さんが普通に使っていますよ」と言う。
IEEE802はローカル・エリア・ネットワーク(LAN)や無線ネットワークを開発したり規格の標準化を行う組織で、その15.1とはスマートフォンなどで私たちが日常的に使っているブルートゥース(Bluetooth)の規格である。
最近のクルマなら、音楽を聴くためにわざわざ楽曲のデータをカーナビなどに内蔵されたストレージに蓄えるようなことはしない。スマホからBluetoothを通じてカーナビに音楽データを飛ばして再生するのが当たり前になっている。
スマホのテザリングももちろんこの規格を使っている。
さて、そんな世界的な組織であるIEEEが、日本人の発明に対して「IEEE Milestone(IEEEマイルストーン)」を認定、6月12日に東京・品川のプリンスホテルで認定書の贈呈式が行われた。
IEEEマイルストーンに認定されたのは、故・根岸重一さんが開発した世界初のカラオケマシーンである。
いまや世界中で愛されているカラオケが生まれたのは第2次世界大戦が終わって22年経った1967年のことだった。
カーステレオの工場を経営していた根岸さんは、仕事終わりによく通った夜のスナックで「流し」のギターに合わせて歌謡曲を歌うのが楽しみだった。
一方で、大の発明好きだった根岸さんは、「流し」が演奏できる楽曲だけでなく、歌いたい人が歌いたい曲を簡単に演奏できる「マシーン」ができないかと考えた。
そして生まれたのが、「ミュージックボックス」。その後「スパルコボックス」と名前を変更した世界最初のカラオケ装置だった。
4曲の楽曲が録音された8トラックの磁気テープを装置に差し込みスイッチを入れると演奏が始まり、マイクを持った歌い手はそれに合わせて歌い、装置のスピーカーから楽曲と歌が同時に流れてくる仕組み。
スパルコボックスには様々な色のライトが点滅して、歌い手の雰囲気を盛り上げる。ミラーボールで場を盛り上げる現代のカラオケボックスのような工夫が最初から盛り込まれていた。
また、4曲の楽曲にはプロの歌手の歌も別に録音されていて、その音量を上げたり下げたりすることができるようにもしていた。
カラオケが普及していない時代、人前で音程やテンポを外したりして恥をかかないように、音量を下げたプロの歌も流すことで歌い手をリードしようという工夫だ。
開発者の根岸重一さんはなかなかのアイデアマンだったようである。
営業の方法にも工夫を凝らし、スナックなどにカラオケ装置を売りつけるのではなく、装置は100円を入れると10分間歌えるようにして、その売り上げをスナックと根岸さんが折半する形にした。
スナックにすれば設備投資は一切かからず、装置を置くだけでお客が歌えば歌うほど売り上げが上がる仕組み。
■ 日本で最古の認定は平賀源内のエレキテル
その開発ストーリーやなぜ特許を取らなかったのかなどについては、根岸重一さんが100歳でお亡くなりになった2024年に追悼文を書いているので、ご興味があればお読みいただければと思う(「100歳で逝ったカラオケの創案者、特許取らずカネより皆の幸せ願う」)。
IEEEマイルストーンの贈呈式では、根岸重一さんの次女、高野淳美さんが重一さんの思いを述べられていた。
「楽しいことが大好きだった父は、世界中の人が毎日カラオケで歌うのを楽しんでいる姿を想い、大変喜んでいました」
根岸重一さんが開発したスパルコボックスは、重一さんの長男、根岸明弘さんによると手元にはもう1台しか残っていないという。
「音楽テープもかなりくたびれてきて、今後も現役を続けるのは難しくなってくるでしょう。いずれはどこかの博物館に寄贈して飾っていただきたいなと思っています」
根岸明弘さんはこう語る。
「父の願いを叶えていただけるなら、世界中の人に楽しんでほしかったので、日本ではなく海外のどこかの博物館に飾っていただけたら本望だと思います」
IEEEマイルストーンは、電気・電子の分野において達成された画期的なイノベーションで、開発から25年以上が経過し社会や産業の発展に多大な貢献をした歴史的業績を認定するもの。
これまでに世界で約270件が認定されている(約270件というのは、名古屋大学の福田敏男名誉教授によれば、世界中で認定作業が行われていて今現在何件と正確には言えないためだという)。
日本ではこれまでに50件が認定され、今回の世界初のカラオケマシーンは51番目となる。
ちなみに名古屋大学の福田敏男名誉教授は、IEEEマイルストーンに認定された日本最古の発明は平賀源内のエレキテル(1776年)だという。
ほかにはカラー・プラズマ・ディスプレイ(1993年)や八木アンテナ(1924年)、QRコード(1994年)、トヨタ自動車の「プリウス」(1997年)などがある。
福田・名大名誉教授によれば、アジアで認定されたのはこれまでに60件で圧倒的に日本の発明が多いそうだが、最近は中国の認定も急速に増えているという。世界的にはやはり米国が群を抜いているそうである。
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